水たまりであるならば、少しよけて歩けばいい。そうして5分後には、そんなもののことなど、すっかり忘れてしまうだろう。
けれど。
――想像力がないんだわ。
そう言い放ったひとの顔が脳裏に浮かんだ。
眉をひそめて、唇をすこし震わせて。その顔は、怒っているようにも悲しんでいるようにも、そのどちらでもないようにも見えた。
――だからいつまでも、わたしの気持ちをわかってくれない。
そうつぶやいて、うなだれた彼女の真意が今もって理解できない自分は、たしかに想像力というものに欠けているのだろう。
水たまり。
あるいは、水たまりではないかもしれないもの。
ふと足を入れてみる。ぴしゃりと音がした。
少しかがんで、手を触れてみる。手触りもにおいも、血液やその他の、水でないなにかのようではない。
暗いなにかは、やはり水たまりだった。
わかりきった答えに、唇から笑いがこぼれた。
あした彼女に話してみよう。この暗いなにかのこと。
ああ、彼女はどんな顔をするだろうか。
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